『紙葉の家』に登場する「鯨」というモティーフを追う上で、ハーマン・メルヴィルの『白鯨』は大いに役立ちそうです。しかし長編文学を読むのは時間もかかるししんどいし、なおかつ情熱が欠けていてはしんどい!せめて概要だけでも把握したいのに……そんな貴方乃至私の為に便利なものを見つけてきました。
皆様は「ウゴウゴルーガ」というテレビ番組をご存知でしょうか。
或る一定の年齢で或る一定の傾向を持つ方なら必ず知っていると云っても過言ではない
奇妙なテレビ番組で、1992年10月5日から1994年3月25日、朝の7時代に放送されていました。
ウゴウゴ君とルーガちゃんという子供達とCGで作られた個性的なキャラクターが様々な会話を繰り広げ、合間に短いアニメーションが挟み込まれる……と云えば、一見普通の子供向け番組ですが、お仕事紹介でフェティッシュ・アーティストが出てきたり、時事ネタを大いに絡めたシャレが飛ばされたりと、午前7時を夜の延長で迎えるような大人達(&スタッフ)を楽しませてやまない内容でした。勿論、私のように「続きで放映されるノンタンより断然ウゴルーのが好き」という子供も多かったと思いますが。
前置きが長くなりました。ウゴウゴルーガは、「あさのぶんがく」というミニコーナーで、奇天烈なアニメーションと超早口のナレーションを駆使し、世界の名作文学を15秒x5回で紹介していました。
2007年にDVD-BOXの発売が決定したのを知り、懐かしさにかられてウゴウゴルーガに関するページを探していたところ、放送内容を書き起こしているサイト様を発見しました。→Classic堂 by悠璃様
(引用を快く承諾してくださった悠璃様に、この場で改めてお礼を申し上げます。どうもありがとうございます!)
では、15秒x5回くらいで『白鯨』をどうぞ。
1992年10月12日放送分
あさのぶんがく:「はくげい」だい1かい メルヴィルさく
ふうらいぼうのイシュメイルは、
りくのうえでせいかつするよりも
うみのうえのほうがだいすきでした。
「あ〜、はやくふねにのってうみにでたいもんだな〜。」
そんなかれは、クリスマスのひに
ほげいせんピークォッドごうにのりこみ、
くじらがりのこうかいへとしゅっぱつしました。
つづく。
1992年10月13日放送分
あさのぶんがく:「はくげい」 だい2かい
イシュメイルがのっているピークォッドごうのせんちょうは
エイハブというとてもおっかないかおをしたおとこでした。
「わたしがエイハブだ。」
なんとエイハブせんちょうのあしはいっぽんだけしかなく
「わたしがエイハブだ。」
かれはじぶんのかたあしをうばったしろいくじらを
とてもにくんでいました。
「わたしがエイハブだ。もんくあるやつは、でてこい。」
つづく。
1992年10月14日放送分
あさのぶんがく:「はくげい」 だい3かい
こうかいにでてから なんにちかがすぎましたが
しろいくじらはあらわれませんでした。
「へいわだな〜。」
エイハブせんちょうはイライラして
「イライライライライライラ。」
ついに ふねのしんろをしめすきかいをこわしてしまいました。
そしてじぶんだけのほうほうでふねをすすませることになり、
みんなのふあんはますますおおきくなるばかりでした。
つづく。
1992年10月15日放送分
あさのぶんがく:「はくげい」 だい4かい
もう しろいくじらをおいかけるのはやめましょう!という
のりくみいんたちのことばにも、
エイハブせんちょうは けして みみをかしませんでした。
「きくみみなどもたぬ。わたしがせんちょうだ。」
そしてとうとうかれは、じぶんのかたあしをうばった
あのしろいくじらをみつけました。
「とうとうやつがきよった!」
「ぬぬっ!!」
「やったるぜ。」
「もりでさす。」
「せんちょー!」
「がんばろー。」
「みんな、じごくであおう!」
「おー!!」
つづく。
1992年10月16日放送分
あさのぶんがく:「はくげい」 さいしゅうかい
エイハブせんちょうと しろいくじらのたたかいは
みっかかんもつづきました。
「え〜い、かくごしやがれ!」
「アオーン!」
そのけっか、エイハブせんちょうだけでなく、
ピークォットごうの のりくみいんたちは、
イシュメイルひとりをのぞいて ぜんいん
うみのそこへときえてしまいました。
「うわー。」
「せんちょー。すきでしたー。」
…ポツーン。
おわり
……如何でしたか?
これだけの要約からでも、『白鯨』の中に登場する鯨が恐るべき怪物であること、(当たり前と云えば当たり前ですが)エイハブ船長の復讐など知ったこっちゃない超然とした存在であることなどが伺えます。苛立ちのあまりに羅針盤を壊すエイハブ船長の姿も、ジェドとワックスの制止を振り切って家の奥へと突き進むホロウェイとも重なるものがあります。
『白鯨』の冒頭には、鯨に関しての様々な引用が記されており、その情報の提示にはなかなかそそられるものがあります。メルヴィルが実際に捕鯨船に乗った経験があるということで、航海に関する知識も豊富に盛り込まれているとか。
さらに、『白鯨』の魅力が存分に紹介されている書評をご紹介します。
→最新文芸情報バックナンバー(2006年6月11日〜12日を参照)‐文芸ジャンキーパラダイス
→松岡正剛の千夜千冊 第300夜『白鯨』ハーマン・メルヴィル
それから、おまけ。
→小説「白鯨」に登場するような巨大で白いクジラは実在するのですか?‐鯨のことなら何でも分かる!鯨ポータル・サイト
そして、余談。
「あさのぶんがく」では他に、『神曲』『ジャン・クリストフ』『失われたときを求めて』『大いなる遺産』『リア王』『レ・ミゼラブル』なども取り上げられました。(参考:ミニコーナー一覧‐人生おやじむし)
どれも「超有名で皆名前は知ってる、但しきちんと読んだかと云われると、うーん」な古典文学作品ばかりです。それに惜しみない情報圧縮をかけ、堅苦しいイメージを笑い飛ばすようなアニメーションをつけ、お世辞にも教育的であるとは云い難いトーンの番組でポンポン放送してしまうという姿勢、私としては愉快で大歓迎。(Monty Pythonの「全英プルースト要約大会」「手旗信号版嵐が丘」なんてのも笑い転げるネタでした)
2007年発売されたウゴウゴルーガのDVD-BOXは、1年半の放送からスタッフがセレクトしたもののみが収録されています。もしかしたら『白鯨』も見られるかもしれません。
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